紫波町は、豊かな自然と肥沃な大地に恵まれた農業のまちです。なかでも北上山地のふところに抱かれた東部地域は、丘陵地で石灰岩質、寒暖の差をいかしたくだもの栽培が盛ん。特にぶどうは、県内の生産量のおよそ半分を占める一大産地で、紫波町ではおよそ50年前からぶどう栽培に力を入れてきました。その品質の良さは折り紙付きで、収穫期にはぶどう狩りでにぎわい、産直には旬のぶどうを求める行列ができるほどです。

質・量ともに県内有数を誇るぶどうの里・紫波。この自慢のぶどうを、もっと別のカタチでまちの活性化にいかすことはできないだろうか。そんな思いから、紫波のワインづくりは始まりました。

「本当の紫波のワイン」をつくろう。ぶどうの里のあたらしい挑戦

紫波町のワインづくりの始まりは、1998年頃までさかのぼります。

当時、紫波のぶどう生産は生食用がほとんど。ワインの原料となる醸造用ぶどうも一部で栽培していたものの、町外のワイナリーや醸造会社に納入されていました。そんな中、生産者有志の間で「紫波のぶどうを使ったワインをつくってみたい」という思いがふくらみはじめます。藤原孝紫波町長(当時)をはじめとする行政や農協もその思いに共感し、検討会が開かれることに。2001年には、「紫波町産のぶどうを使い、町内で醸造するワイナリー」の計画が表明され、2004年には国産ワインの先駆け・山梨県で長年ワインづくりに携わってきた伊藤勝彦さんを醸造責任者として招聘。ワイナリーの建設・稼働に向けた準備を進めていきました。一方、生産者たちも栽培するワイン専用品種の検討をはじめ、メルロー、カルベネフラン、ケルナー、ミュラートゥルガウなど数品種を選定。2002年に栽培を開始しました。

ぶどうの木は、植えてから数年は収穫をしません。まずは幹を太くし、いいぶどうを実らせる強い木に育てるためです。収穫できるのは3年目から、しかもワインづくりが成功するかは未知数。そんな中、生産者の方たちも生食用からワイン用ぶどうに切り替えることは勇気がいることだったと思います

そう話すのは、自園自醸ワインを製造する株式会社紫波フルーツパークの佐藤大樹さん。初代・伊藤勝彦さんから数えて4代目の醸造責任者です。

「生産者の方々は『絶対成功させる』という強い思いと覚悟で挑戦したはずです。そしてその思いは醸造チーム、それを支える行政も同じ。ワインができればそれでいい、というものではない。紫波の特産として『多くの人に愛され、売れるワイン』をつくることが目標でした」

2004年秋、初収穫したぶどう約440kgを盛岡市内で試験醸造。そして翌2005年には、自然豊かな場所に完成したワイナリーで、いよいよ「自園自醸ワイン」の仕込みが始まりました。

当初6戸の農家で始めたワイン用ぶどうの栽培。今では18戸になり、自社での栽培も開始。ぶどうの品種も収穫量も増えました。一方で生産者の高齢化に伴い、担い手の継承が課題でもあります

口にしたとき、このまちの風景が浮かんでくるようなワインを

自園自醸ワイン紫波のロゴに使われているウェーブは「紫(むらさき)の波(なみ)」を表現。紫波でしかつくれないワインがある、という強い信念が込められています

2005年の初仕込みから1年。醸造された「自園自醸ワイン」は、2006年9月1日、デビューの日を迎えました。しかし、まちの人々に受け入れてもらうには少し時間がかかったと佐藤さんは言います。

「紫波は日本酒の職人集団・南部杜氏発祥の地という地域柄もあり、ワインはあまり馴染みがなかったんです。まずはひと口でも飲んでもらおうと、町内の飲食店を会場に、毎月1回ワイン会を開催しました」

ほかにも出張ワイン講座、ワイナリー見学など「ワインとの接点」をどんどんつくった、と振り返る佐藤さん。こうした努力が身を結び、ワインに関心を持つ人が少しずつ増えていったと話します。

「地域の集まりに持って行くからと直売所を訪れてくれるようになったり、ギフト用に買い求める人も増えていきました。また、東日本大震災以降は岩手の物産に注目が集まり、県外の人に知ってもらう機会も多くなりました。国内のみならず世界中にワイナリーがあるなかで『紫波のワインが好きだ』と言ってくださるお客さんも増え、うれしいと思うと同時に、これからも期待に応えるワインをつくらなければ、と身が引き締まります」

そんな自園自醸ワインを「フレッシュで、長い余韻を感じる酸味が魅力」と評する佐藤さん。繊細さ、奥ゆかしさのある口当たりは「ダシや食材のうまみをいかす日本の料理にとても合う」と話します。

「ワイン用語で『テロワール』という言葉があります。場所、自然、土壌など、ぶどうが取り巻く環境を指す言葉なのですが、私たちが目指すワインづくりのキーワードでもあります」

豊かな緑と丘陵の広がり、寒暖の差、降り注ぐ太陽の光と雨。紫波のぶどう畑の風景と、ワインづくりに携わる人の姿を想像したくなるようなワインをつくりたい、と佐藤さん。

「ぶどうの木も樹齢を重ねてきましたし、私たちの醸造の技術や知識も成熟しつつあります。とはいえワインづくりにゴールはありません。『年々よくなっている』という声も『まだまだ』という声も励みにしながら、ここでしかできないワインをつくっていきたいです」

保存保存

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株式会社 紫波フルーツパーク
住所:岩手県紫波郡紫波町遠山字松原1-11
TEL: 019-676-5301
店舗営業時間:9:00~17:00 (試飲・工場見学無料)
定休日:年末年始

自園自醸ワイン紫波 HP

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