銘柄を7種に絞り、原料米「トヨニシキ」を自社で栽培するなど、品質にこだわる「高橋酒造店」杜氏の高橋誠さん。今もなお、昔ながらの道具や機械を用いた酒造りを行っている。
小さい規模だからこそ、
ひとつひとつにかけられる手間を
酒造りを始める前、もともとうちは米を集めて納める庄屋として麹を販売していました。酒造店として創業したのは大正11年。代々家族で営んできていて、今は父が蔵元、母が瓶詰めや出荷を担当しています。
小さいときから酒造りを見る機会は多かったですが、実際に手伝うことはなかったですね。職人のやることだからね。私も手伝おうとは思わなかったし、蔵の人達も手伝わせようとはしなかった。
大学を卒業した後、2年くらいサラリーマンやっていて。ふと働き方について考えた時に、言われたことをするのではなくて、自分で考えて仕事をするのがいいなと思い始めたんです。そうして、徐々に杜氏になることを意識し始めました。
最初の2年間は前の杜氏さんに教えてもらいながら仕事をして、3年目からひとりで杜氏の仕事を任されるようになりました。やっぱりきつかったですね。造り方を教わったといっても、その年によって原料の特徴が変わってきます。それに合わせて造り方を変えていかなければいけないから、まあなんとかつくることができてよかったです。
堀米という商品は100%自家米のお酒です。トヨニシキという品種を栽培していて、量は3ヘクタール、180俵くらい作付けしています。私も田植えとか稲刈りとかそういったものは手伝いますね。
この場所は自然豊かで、造りに関してはすごくいい場所だと感じています。
1年中ずっとお酒を造るために動いていますね。夏は瓶詰め・出荷をしながら合間に農業。11月から造りが始まって、終わるのが2月。農業をして、酒を造ってというのは昔ながらの酒蔵の生活スタイルかもしれないです。
造りの時期は楽しいですけど、とても緊張する時間です。
自分で考えたものがそのまま世の中に出るので、よし今年もやるかっていう楽しさと、間違えられないなという緊張感を抱きます。
悪いものを造っても、誰も責めれないというのもやりがいに繋がっています。
その年に、どんなお酒を造るのかは基本的に1人で考えています。
小さい蔵ですので、他品種少量はコストばかりかかって手間がかけられなくなってしまう。品種を絞ってひとつひとつにかけられる手間を増やしたいという思いで、今は7種類のお酒を販売しています。
どのお酒もここは軟水なので、柔らかい味わいがします。
ほどよい甘さ。ふわっとした味にしたいなという感じです。
基本的に目指しているのは、お客さんが喜ぶ味。
自然と今まではお客さんが求める味と自分の求める味が一緒だなと感じています。
たまたまなのか、自分で思い込んでるだけかもしれないですけどね。
酒造りって楽しいので、あまり苦労だと思ったことはないですね。
一番嬉しいのはお酒を搾ってみて、自分の思い通りの味にできあがってた瞬間。
とけやすい、とけにくいなどのお米の特徴によって味が大きく変化しないように、できるだけ同じ品質のものを造ろうと心がけています。その中で自分たちが出したい味を微調整していく。米がとけるからそれをしょうがないんだとやってしまわないで、とけやすくてもスッキリした味になるように。できるだけ変化の幅を小さくしていくっていう方針ですね。
昔ながらの製造技法
使っている物それぞれに年季が入っているのは、決して昔にこだわってるわけではないんですけど、結果的に理にかなっていたので使っているっていう感じです。量が多くなると近代的な機械が向いているんですが、量が少ないときはこっちのほうがいいんです。
蓋麹(ふたこうじ)っていうのは少ない量の麹を造る時に適しているんです。温度調整がし易いですし、一番これがいいのかなというので使っています。
誰が飲んでもおいしいお酒
「今年のお酒もおいしかったよ」とか、お客さんからすぐに反応を聞けるのも嬉しいことです。近所の方から聞くこともありますし、お酒の会とかで直接話を聞くことも多いですね。手紙をいただくこともあります。
お酒の会というのは飲食店さんを借りて、お酒の説明をしたりとか、私も直接お酒を注ぎながら、堀の井のお酒を振る舞う会です。紫波でもやってますし、盛岡に行くこともあります。2ヶ月に1回とかかな、少しずつ回数を増やしてきています。まだまだ知られていないというのがあるので、みんなに知ってほしいですね。
目標とする酒はスタンダードなお酒です。いろいろ辛口にしたりとか、甘口にしたりとか、酸が強かったりとということではなく、直球で。飲みやすくて、いつまでも飽きないお酒ですね。
これからもっと多くの人に知ってもらって、愛されるお酒を造っていきたいです。