2021年11月21日、2021年3月に閉校となった旧 紫波町立水分小学校でオープンキャンパスが開催されました。
本記事はオープンキャンパス内で行われたトークセッション、酒とまちづくりの未来論のイベントレポートとなります。
トークセッションの登壇者は遠野市のビールを核にしたまちづくり「ビールの里」構想に取り組む、株式会社Brew Goodの田村淳一さん。紫波町が掲げる「酒のまち」の推進を担う、紫波町役場の須川翔太さん。ファシリテーターはNPO法人wizの黒沢惟人さんです。
後編(本記事)の話し手は株式会社Brew Goodの田村淳一さん、前編の話し手は紫波町役場の須川翔太さんになります。
(黒沢)
続いて、田村さんに遠野市でのビールを核にしたまちづくりなどの取り組みについてお話をお願いします。
遠野市が掲げる「ホップの里」から「ビールの里」へ
(田村)
よろしくお願いします。僕は和歌山県の人口約3千人の村で生まれ育ちました。大学卒業後はリクルートという会社に就職し、新規事業の立ち上げなどを担当していました。たまたま誘われて遠野に来ることになりまして、それまではあまりお酒を飲む方ではなかったのですが、遠野のビールの可能性に魅せられて遠野醸造を仲間と一緒に立ち上げました。
ホップを触ったことがあるよって方いらっしゃいますか?
ホップはビールにとってなくてはならない材料ですが、遠野のホップ農家が激減してきているという現状があります。遠野市内では20軒以下で、このままでは5年後にはなくなっているかもしれません。
これまで遠野市は1963年からキリンビールとの契約栽培が始まり「ホップの里」と謳ってきましたが、ホップ農家が減って、中心市街地の店舗が空き、まちが衰退してきている。これからは「ビールの里」へと変化させていくことで、まちに新しい産業を創っていきたいと考えていて、今は次の50年を目指して頑張っています。
まずはホップ農家の減少をなんとかしないといけない、ということで新規就農者や移住者を増やす取り組みを行っています。その中で遠野駅前に遠野のビールが飲める場所が少なかったことから、遠野醸造TAPROOMを立ち上げました。
遠野醸造が盛り上がっている印象を持たれる方もいるかと思いますが、最初は反対意見もありました。例えば「そんなのは儲からない」「人がいないんだから、難しいだろう」という意見です。なので、地域の方々を巻き込んで一緒にお店を作るところから始めました。クラフトビールの飲み比べイベント、レストランで提供する料理の試食会をやったりもしました。これらの活動を通じて、いろんな方々の声を知れたし、理解し合いながら楽しみながらお店を立ち上げることができました。
遠野醸造のミッションは「コラボレーションしてコミュニケーションを生み出して、コミュニティを広げていく」ということです。コラボすれば、会話が生まれる、会話をすればコミュニケーションが生まれます。近くの農家さんや、関係する人を巻き込むということ。そうすることでコミュニティが広がり、いろんなことが生まれていきます。
あとは、ビールの醸造を学びたくても学べるところが日本国内にほとんどないのが現状です。なので、積極的にそういう方が集まって学べる場所としても提供し、ビール造りを手伝ってもらっています。僕らは地域おこし協力隊の制度を使って移住をしてもらったメンバーと一緒に遠野醸造を立ち上げました。今では地域おこし協力隊に限らず、移住したいという相談も増えています。
大きな課題として日本のホップ農業は海外と比較して遅れています。特に栽培における機械化が進んでいません。ドイツでは、日本で8人でも苦労するような作業を1人でやっていて、それくらい機械化、効率化が進んでいます。日本でもそういうことをしていかないと、どんどん人が減る中で農業を守れないので、ホップ栽培の機械化、効率化に向けて活動もしようとしています。
遠野ホップ収穫祭というイベントも行っていますが、商業的なイベントにはしないようにしています。ホップのことを知ってもらう、ホップ農業の課題を考えてもらう仲間を増やすことが目的です。なので、終わった後も関係が続きます。それは仲間集めという意識を持っているからです。
Brew Goodを立ち上げた経緯ですが、もともとは10人弱の少人数でこれまで紹介したビールの里プロジェクトの活動を行ってきました。その中で遠野醸造が立ち上がったりなど、それぞれがまちづくりを考えていろんなことをやろうとした。それでも良いんだけど、それぞれの動きが分散しはじめて、全体をマネジメントする役割が必要だと考えたからです。
ビールの里プロジェクトを進めていくために、チームとして事業を進めることが、難しいですが大切なことです。このプロジェクトはキリンビールやJR、市役所、ホップ農家、地域のブルワリーなどの色々な方々と取り組んでいますが、毎月の定例会議を開催しています。参加者全員が喋るので、一回の会議に長いときで3時間くらいかかり非効率なんですが、どんなに非効率でも、みんなが集まって話し合うことに価値があると思っています。さまざまな立場、現場から湧き上がる課題を、できるだけチームで解決するようにしています。収穫祭を文化祭のような気持ちでやったりして、結束が高まっています。ボランティアでやるだけでは続かないので、自社の売り上げにつながる、農業や町が元気になることにつながることをしよう。それにつながらないことはやりすぎないようにしようとも言っています。
改めて、僕らが最大の課題だと認識しているのが、ホップ栽培です。なんとか課題を解決したいんです。ホップ農家がなくなったら、ホップが無くなったまちのブルワリーなんて、言えないですよね。とにかくホップを守らなきゃならない。
正直、ホップ栽培はあまり儲かりません。これが本当に問題です。
ホップは収穫すると、乾燥させないといけなく、乾燥までしないと販売できない。遠野市にある乾燥施設が45年ほど経過しているもので、設備の修繕・維持費が年々上がっている。それをホップ農家が支えているんです。施設利用料が上がることで利益を圧迫しています。新規就農者が続けにくいモデルでもあります。移住して1人でホップ栽培を始めると、膨大な作業があり、栽培コストも高く、稼ぐことができないので辞めますと言われてしまうことが起きています。
この課題をどうやって解決すればいいのか?
農業を応援したい、ホップ栽培を応援したいという方々から寄付金をいただいています。ふるさと納税の制度を活用して、寄付の申し込みの時に、ビールの里プロジェクトに寄付してもらえるようにしていて、昨年度は1,700万円の寄付が集まり、その約半分がプロジェクトの財源になります。その財源を使って、持続可能な栽培モデルを実現しようとしています。例えば、栽培コストを下げることに取り組んだり、老朽化する機械や施設の改修費用にあてようとしています。
加えて、今考えているのがツーリズムです。より応援者を増やすためには、観光にも力を入れないといけない。そこで、海外では一般的となっている、地域に来て醸造所を回って美味しいものを飲む、食べるツーリズムを地域のツアー会社と企画・販売しています。
ホップ畑とブルワリーをメインにツーリズムを組み立てるだけではなく、サイクリングをプラスして、いろんな農家さんを回って、そこの野菜を使ったお料理を楽しんだり。遠野物語のコンテンツも追加するなど、ビール以外の地域資源をうまく絡めることで、都会のビールツーリズムとは違う、田舎らしいビールツーリズムとして「TONO JAPAN HOP COUNTRY」というブランドを立ち上げました。
モニターとして海外の人に体験してもらいましたが、すごく評判が良かった。地域を巡りながら、地域のものを食べ、地域のお酒を飲む。これはその場でしかできないことですから。
このツーリズムは寄付金を含んだ価格設定にしています。それをしっかりと事前にご案内しています。観光として楽しい、ということにプラスして、農業を一緒に解決しているという体験の提供にもなっています。これが、観光を起点にした地域の活性化だと考えています。ホップの産地としてこれからもっと認められれば、もっと人が来るようになります。
お酒を楽しむということは、食も楽しむことにつながります。お酒に関する取り組みは、絶対に農業の課題解決にもなります。これは紫波町にとっても同じことだと思います。
最後にアメリカのポートランドで、廃校になった小学校を使ったホテルですごく良い事例があったのでご紹介します。コロナ前に実際に行ってきました。
中に入ると、当時の小学生たちの写真が飾ってあって、中にレストランが6店舗くらいあって、地元のお母さんたちのグループが食事をしていました。小さな映画館もあって、地域の方が見にきていました。ブルワリーではビールの醸造がされていました。ボイラー室がバーになっていました。
何が言いたいかというと、このホテルって、観光客だけじゃなくて、地元の方々も利用しているということなんです。
これから水分小学校がどういう展開になるかわかりませんが、この事例はすごく参考になると思います。昔、通っていた小学校に今でも通っている、そういうことになればいいですね。
前編はこちらからご覧ください→https://tsugihito.net/archives/912